第3話/全3話 写真と出会って、“これが自分の仕事かもしれない”と思えた夜
撮るという行為が、誰かの大切な想いと向き合うことだとしたら、その瞬間、私はやっと“自分の輪郭”を感じることができた気がする。
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偶然のはじまり
私は写真を仕事にしようと思っていたわけではありません。
2021年、以前から通っていた社会人勉強会の主催の方が経営する、スピーチライティングの会社で撮影スタジオを立ち上げることになり、「秋葉くん暇でしょう〜?」と、そこでフォトグラファーやマーケティングの仕事をしないかと声をかけていただきました。
その会社では2年近く働きましたが、普段なかなか会えないような方々と出会えたり、大企業の案件に関わることができたりと、学びの多い素晴らしい環境でした。振り返ってみると、今の自分の仕事観や、人としての幅を大きく広げてくれた場だったと感じます。
印象深い仕事は、初めてのクライアントワーク『参議院議員選挙のポスター撮影』です。
人生をかけて社会を変えようとしている人。その真剣さが、ファインダー越しにビリビリと伝わってきました。「本気の人は、こんなにもまっすぐなんだ」と思いました。それを撮る自分の背筋も、自然と伸びていました。
正直、震えるような気持ちでした。
「この人の想いを、ちゃんと残さなければ」
そんな使命感のようなものが、大きなプレッシャーとして押し寄せてきたのを覚えています。

東京駅丸の内口にて。写真も動画も、色々やった
バンコクライフSeason3
3度目の移住のきっかけは、2022年12月。バンコクで野球のイベントがあって訪れた際、学習塾で個別指導の募集があるという話を、知人から聞きました。
スタジオでの仕事には、やりがいがありました。けれど私は、もう日本という場所に、心がついていけなくなっていました。とにかく寒さが苦手だったこと、そして何より、自分の中にあった「バンコクに戻りたい」という気持ちが消えることはなく、日に日に大きくなっていたからです。
だからこそ、再びバンコクで働けるチャンスが訪れたとき、迷わず戻ることを選びました。
再移住後は、バンコクの学習塾で働きました。正直、その仕事は自分に向いていたと感じています。子供がどんどんできるようになる姿、感謝してくれる保護者の方々、元教員の経験も活かせました。
ですが、どうしても「これをずっと続けていきたい」とは思えませんでした。
どこかで、“借り物の人生”を歩いているような感覚がありました。
悪くはないけれど、本当でもない、そんな毎日でした。
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最後の夜に、はじめての感覚が生まれた
そんなある日、ずっと通っていたプラカノンの『小料理屋て』の店主であり、日本人学校勤務時の先輩でもある萌さんから、閉店するという決断を聞きました。
本当に、大好きな場所でした。大きな心の支えでした。それを聞いた日の帰り道、バイタク乗りながら自分でも引くほど泣きました。
料理も、人も、空気も、すべてがあたたかく、最高の場所でした。なので、
「秋葉くんさ、最後の日写真撮ってくれない?」
そう頼まれたとき、私は迷わず引き受けました。
迎えた最終日。特別な夜。普段は10数名しか入らない店に100人以上の人が訪れ、笑い声と涙と「ありがとう」が交差する空間の中で、私は夢中でシャッターを切りました。
愛しかなかった、とても美しい夜でした。
撮りながら、熱いものがこみ上げてきました。
人々のあふれる想い、この空間にしかない温もり、かけがえのない瞬間。
それらを未来に留めることができる「写真撮影」という行為の尊さを、この時、私は初めて全身で感じたのです。
「これを、自分の仕事にしたい」——
それは、誰かに言われたからでも、何かに憧れたからでもなく、心の底から湧き上がってきた、紛れもない私自身の声でした。

載せる画像選んでたらまた涙出てきた
そして今、言えること
私は、その人の人生を語るために撮っているわけじゃないけど、そこにある想いや輪郭を、自分なりに感じたまま写真に込めていたいと思っています。
本気の人に、本気で向き合う。
その時間を、ちゃんと写真に残す。
その時間を、ちゃんと写真に残す。
最初に震えたポスター撮影も、最後の夜の小料理屋も、すべてが今につながっていました。
「何ができるか」より、「どう関わるか」。
今の私にとって、仕事とはそういうものです。
今の私にとって、仕事とはそういうものです。
写真というかたちで、目の前の人が“その人らしくいられた時間”を、そっと残したいと思っています。
バンコクで過ごす日々は、いつもと変わらないようでいて、振り返ったとき、涙が出るほど愛おしくなる瞬間の連なりです。
その一枚が、「あぁ、あの時間、すごく良かったな」って、未来の自分にそっと語りかけてくれるような存在になれたらいい。
──あの夜、小料理屋で言葉に詰まった自分へ。
そして、「お前、何がしたいねん!」と問いかけてくれた今津さんへ。
そして、「お前、何がしたいねん!」と問いかけてくれた今津さんへ。
今なら、少しだけ言える気がします。
私は、この街で過ごす誰かの“人生の糧”になるような写真を残したい。
今を肯定できる一枚が、未来を照らす力になると信じて。