第1話/全3話  『そもそもお前、何がしたいねん!』


迷っていてもいい。今はまだ、言葉にならなくてもいい。
誰かと話すこと、誰かに撮られること、そんな小さなきっかけが、人生のスイッチになることもある。

バンコクで3年、日本で1年半やった教員を辞めて、「次はどんな仕事をしようか」と考えていた頃、ふとバンコクに旅行で訪れることにしました。
バンコク日本人学校で教えていた頃に担任をしていた子どものお父さんが現地にいました。在任中から親交があり、そのときも飲みに行こうという話になりました。
Soi49のあずまでビールを飲みながら彼が言ったのは、
「あいつ(息子)めちゃくちゃ野球にハマっちゃってさ。会社の裏に野球が練習できる場所を作りたいと思ってるんですよ。」
という話でした。
そして、本業が別にあるから、誰か事業の中心になってくれる人を探しているということでした。
その話を聞いたとき、とても胸が高鳴ったのをよく覚えています。

自分の好きなバンコクで、大好きな野球ができて、しかもこれまでの教育のキャリアも活かせる。
「これは、自分の仕事だ」
そう思いました。
それが、2回目のバンコク移住を決めるきっかけです。

希望に満ちていたバンコクライフSeason2

しかし、いざ始まってみると現実は甘くありませんでした。バンコクでスポーツ複合施設の立ち上げに関わる中で、最初に描いていたような理想とはかけ離れた日々が続きました。
裁量はどんどんなくなり、意見は通らず、成果も見えませんでした。気づけば、愚痴ばかりこぼしていました。
「上が決めてくれない」「あの人はやりにくい」本当は、自分がどうしたいのかも分からないのに、何かのせいにして、自分を守っていたのだと思います。

そんなある日。プラカノンにある「小料理屋て」で、常連客の今津さんに言われました。
「そもそもおまえ、何がしたいねん!」
大柄で、熊さんみたいな人。豪快で、愛されキャラで、本当に頼れる男性からのその言葉は、私の胸に突き刺さりました。7年前のことなのによう覚えてますわ。
周囲には、優しい言葉をかけてくれる人もいました。
「つらいよな」「もうちょっと頑張ってみたら」
そうやって励ましてくれる人たちの中で、今津さんだけは、ちょっと違う目で見てくれていた気がします。

あのとき私は、何も言えませんでした。心のどこかでは、気づいていたのだと思います。
「何がしたい?」って聞かれても、出せる言葉を、自分の中に持っていなかったことを。

それでもバンコクにいたかったんです。それだけは確かでした。
混沌としたエネルギー、人々の屈託のない笑顔、どこか緩やかで自由な空気。
そのすべてが、なぜか僕の心を惹きつけてやみませんでした。

何かを成し遂げたいとか、社会に貢献したいとか、そんな立派な理由じゃなくて。でも当時は、「それだけじゃ足りない」と思っていました。​​​​​​​
「ちゃんとした理由がないとダメだ」
「やりたいことがある人が、かっこいい」
そう思い込んでいたから、言葉にできない自分を、情けなく感じていました。​​​​​​​

今思えば、他人の人生を生きていた。

今なら少しだけ、あのときの自分に言ってあげられるかもしれません。
迷っているということは、ちゃんと自分の人生を歩こうとしているということ。

はっきり言えないときもあります。どこに向かっているのか分からなくなる日もあります。でも、そういう時間もちゃんと意味があると、少し遠回りした今なら、思えます。
誰かの何気ない言葉が、後からじわっと効いてきて、自分の物語を変えていくことがあります。
だから、迷っているあなたにも、「今のあなたで、十分生きてるよ」ということが、ちゃんと届いてほしいと思って書いています。​​​​​​​

こちらもご覧ください

Back to Top